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​理学療法部門の特色

脳卒中急性期からの理学療法

 脳卒中治療ガイドラインでは十分なリスク管理のもとに,できるだけ発症後早期から積極的なリハビリテーションを行うことが強く勧められています(※1).中でも「離床」は早期リハビリテーションの中心的な役割を担っております.離床とは座る・立つ・車いすに移る・歩くといったようにベッドから離れることを意味しています.脳卒中に伴う不活動や寝たきり状態は廃用症候群(不動により引き起こされる筋力・心肺機能・認知機能などの各種の機能低下)を誘発し,さらに肺炎や深部静脈血栓症といった二次的に生じる合併症を引き起こすことが知られています.発症後早期の離床は廃用症候群や合併症の予防に有効であり,機能回復にも好影響を与えることが期待されています.当院では発症後早期よりリハビリテーションが処方され,脳卒中の状態や合併症,患者さまの病歴などを考慮し可及的速やかに離床を開始し,最大限の機能回復が望めるよう心がけております.また筋力低下の予防のための電気治療や活動量の維持・向上に向けた取り組みも併せて実施しております.

人工呼吸器の設定について,主治医と相談している風景

(このように主治医と密に連携をとっている)

 補足:当院では急性期リハビリテーションに関する研究を行っており,いくつか成果を挙げ報告させていただいております(※2-6).

(※1)日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会:脳卒中治療ガイドライン2015.協和企画,東京,2015.

(※2)Masashi Kanai, Hiroki Kubo, Yuka Kitamura, Kazuhiro P. Izawa, Kumiko Ono, Hiroshi Ando, Masafumi Nozoe, Kyoshi Mase, Shinichi Shimada: Difference in autonomic nervous activity in different subtypes of noncardioembolic ischemic stroke. International Journal of Cardiology 201: 171–173, 2015.

(※3)金居督之,久保宏紀,北村友花,野添匡史,間瀬教史,島田真一,小野くみ子,井澤和大,安藤啓司:急性期非心原性脳梗塞患者における離床時の自律神経系活動評価の意義 ─脳梗塞の病型による比較─. 理学療法科学31(1):169–174, 2016.

(※4)久保宏紀,金居督之,北村友花,古市あさみ,山本実穂,小林実希,野添匡史,間瀬教史,島田真一:脳内出血患者における急性期病院退院時の機能予後とその要因.理学療法学43(3): 222-229, 2016.

(※5)古市あさみ,野添匡史,丹波江理,金居督之,久保宏紀,北村友花,山本実穂,山本浩隆,島田真一:早期人工呼吸器離脱に成功した脳内出血患者に対する理学療法経験.理学療法兵庫22: 33-36, 2016.

(※6)Hiroki Kubo, Masafumi Nozoe, Miho Yamamoto, Arisa Kamo, Madoka Noguchi, Masashi Kanai, Kyoshi Mase, Shinichi Shimada: Safety and Feasibility of the 6-MinuteWalk Test in Patients with Acute Stroke. Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases 27(6): 1632–1638, 2018.

下肢運動機能障害に対する電気刺激療法

 脳卒中を発症した約72%の方が下肢(太ももや膝,足首)に運動機能障害を患い,歩くことを中心に日常生活での不自由さの原因になると言われています(※7). このような下肢の運動機能障害に対して, 当院では電気刺激療法を併用した理学療法を実施しています. 下肢運動機能障害に対する電気刺激療法は脳卒中治療ガイドライン2015でも取り上げられており, 海外でもその有効性が広く知られています(※8) .

 脳卒中後の下肢運動機能障害は大きく分けて2種類あります.1つは脳卒中によって脳内の足を動かす神経が損傷することで生じる運動麻痺, もう1つは運動麻痺や入院後の活動量低下の影響で足そのものの筋肉が減少したり, 筋力が低下したりするような筋機能の低下が挙げられます.これら2つの症状に対して,電気刺激療法は有効であると考えられています.特に筋機能の低下は近年重要視されており, 当院の調査結果においても筋肉が減少している方ほど日常生活での不自由さは大きくなることが分かっています(※9) .また,ここで生じる筋肉の減少は脳卒中を発症して1,2週間の間に進みやすいことからも,この時期に電気刺激療法を用いて筋肉の減少を予防する取り組みも行っています(※10) .

片脚の太もも・すねに電気刺激療法を実施している風景と両太ももに電気刺激療法を実施している風景

 また,この電気刺激療法は実際に歩く練習を行う際に同時に行うことで,よりその効果が増すことが知られています.当院でも歩く練習や立つ練習,足を曲げ伸ばしする練習を行う際には,患者さまの状態に合わせてこれら電気刺激療法を併用しながら練習を実施します.

歩く練習に電気刺激療法を併用している風景 足のペダリング運動に電気刺激療法を併用している風景

(※7)Lawrence ES, Coshall C, Dundas R, Stewart J, Rudd AG, Howard R, Wolfe CD. Estimates of the prevalence of acute stroke impairments and disability in a multiethnic population. Stroke 32(6): 1279-84. 2001.

(※8)http://www.ebrsr.com/sites/default/files/v18-SREBR-CH9-NET-1.pdf

(※9)Nozoe M, Kubo H, Furuichi A, Kanai M, Takashima S, Shimada S, Mase K. Validity of Quadriceps Muscle Thickness Measurement in Patients with Subacute Stroke during Hospitalization for Assessment of Muscle Wasting and Physical Function. J Stroke Cerebrovasc Dis 26(2): 438-441. 2017.

(※10)Nozoe M, Kanai M, Kubo H, Takeuchi Y, Kobayashi M, Yamamoto M, Furuichi A, Yamazaki M, Shimada S, Mase K. Efficacy of neuromuscular electrical stimulation for preventing quadriceps muscle wasting in patients with moderate or severe acute stroke: A pilot study. NeuroRehabilitation 41(1): 143-149. 2017.

脳卒中の再発予防について

 日本人の一般住民を対象とした研究によると,一度脳卒中を発症された方の内10年間で26%が再発することが報告されています(※11).また,脳卒中のタイプによって再発率の推移は異なることが示されています(10年間の累積再発率:脳梗塞49.7%,脳出血55.6%,くも膜下出血70.0%).そのため,発症後には再発予防に向けて様々な対策が必要となります.例えば脳梗塞の場合は,再発のリスクになり得る高血圧症,糖尿病,脂質異常症などの是正やお薬による管理が重要となります(※1).これらに加えて,肥満,喫煙,飲酒,運動などのライフスタイル因子の是正についても注目されています.

 そのような中で,日本の研究において,軽症の脳梗塞患者さまを対象とした運動介入や減塩・禁煙指導といったライフスタイル介入により,脳梗塞の再発率が減少することが示されています(※12).先の研究は脳卒中を発症後に自宅退院された患者さまを対象としていますが,当院ではこの研究の結果をもとに入院中からの運動量(身体活動量)の増加だけでなく,他の医療専門職と共同して退院後のライフスタイルの是正に向けて指導させていただいています.

(※11)Hata J, Tanizaki Y, Kiyohara Y, Kato I, Kubo M, Tanaka K, Okubo K, Nakamura H, Oishi Y, Ibayashi S,  Iida M: Ten year recurrence after first ever stroke in a Japanese community: the Hisayama study. Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry 76(3): 368-372, 2005.

(※12)Kono, Y, Yamada S, Yamaguchi J, Hagiwara Y, Iritani N, Ishida S, Koike Y: Secondary prevention of new vascular events with lifestyle intervention in patients with noncardioembolic mild ischemic stroke: a single-center randomized controlled trial. Cerebrovascular Diseases 36(2): 88-97, 2013.

入院中の身体活動量

 脳卒中治療ガイドラインでは,急性期リハビリテーションの項において「不動・廃用症候群を予防し,早期の日常生活動作(ADL)向上と社会復帰を図るために,十分なリスク管理のものにできるだけ発症後早期から積極的なリハビリテーションを行うことが強く勧められる.」と記載されています.患者さまのご病状が安定された後には,少しずつ体を動かす(身体活動量を増加させる)ことが重要となります.しかし,脳卒中を発症された患者さまは不活動になりやすく(※13),日中に寝ている時間が多いことが結果として回復を遅らせるといった報告があります(※14).そのため,当院では患者さまのご病状が安定し次第,可及的早期に身体活動量を増加させる取り組みを行っています.

(※13)Bernhardt J, Dewey H, Thrift A, Donnan G: Inactive and alone: physical activity within the first 14 days of acute stroke unit care. Stroke 35: 1005–1009, 2004.

(※14)Askim T, Bernhardt J, Salvesen O, Indredavik B: Physical activity early after stroke and its association to functional outcome 3 months later. J Stroke Cerebrovasc Dis 23: e305–e312, 2014.

身体活動量を増加させる取り組み

 当院では,一般的な理学療法(筋力増強運動,基本動作練習,歩行練習など)に加えて,リハビリテーション中以外での身体活動量を増加させる取り組みを行っています(※15,16,17).具体的には身体活動量計を患者さまに配布し,1日の身体活動量のモニタリングを行います.当院の軽症脳梗塞患者さまを対象とした研究では,1日の身体活動量(歩数)の内47%がリハビリテーション実施中の活動であることが明らかになりました(※18).すなわち,リハビリテーション実施中は身体活動が保たれていますが,それ以外の時間は不活動である可能性があります.これを防ぐために,先ずは患者さまごとに1日の基準となる身体活動量を測定した後に,具体的な目標設定を行い,徐々に身体活動量を増加させるように指導します.この目標は理学療法士が一方的に決定するのではなく,患者さまと相談した上で個人個人に合わせた実現可能なものに設定します.

 具体的には,退院後に患者さまが通勤などで移動する,もしくは余暇に運動をする時間や距離などをお聞きした上で,退院までに少しずつ身体活動量を増加してもらいます.目標を立てた後に,患者さまは自ら自身の身体活動量をセルフ・モニタリングしてもらい,日々の歩数や自主練習の内容を行動記録表に記載していただきます.この記録をもとに,理学療法士が前日の達成度合いなどをフィードバックし,次の目標を設定するといった内容で進めていきます.このような当院での身体活動量を増加させる取り組みは一定の効果を得ており,多数論文化された実績があります(※16,17).

 現在は,歩行をする際に杖や装具などを使用している患者さまや移動に介助を要する患者さまについても,同様に身体活動量を増加させることができるかを検証している状態です.この入院中の身体活動量をもとに,退院時には具体的な運動指導を行います.さらに退院後の初回に外来受診をされた際に,どの程度の運動を実践されているかを確認させていただいています.以上のことより,当院では入院直後から退院後まで一連の流れで身体活動量の評価ならびに,これを用いた適切な運動指導を行っております(※19).

(※15)山本実穂, 金居督之, 久保宏紀, 北村友花, 古市あさみ, 野添匡史, 間瀬教史, 山本浩隆, 島田真一:機械的血栓回収療法を行った急性期脳梗塞患者に対する身体活動量に着目した理学療法経験. 臨床理学療法研 33: 23-26, 2016.

(※16)Kanai M, Nozoe M, Izawa KP, Takeuchi Y, Kubo H, Mase K, Shimada S: Promoting physical activity in hospitalized patients with mild ischemic stroke: a pilot study. Topics in stroke rehabilitation 24(4): 256-261, 2017.

(※17)Kanai M, Izawa KP, Kobayashi M, Onishi A, Kubo H, Nozoe M, Mase K, Shimada, S. (2018). Effect of accelerometer-based feedback on physical activity in hospitalized patients with ischemic stroke: a randomized controlled trial. Clinical rehabilitation, 0269215518755841.

(※18)北村友花, 野添匡史, 金居督之, 久保宏紀, 山本美穂, 古市あさみ, 間瀬教史, 島田真一:軽症脳梗塞患者における急性期病院入院中の身体活動量と身体機能との関係. 理学療法学 43(3): 230-235, 2016.

(※19)Sasaki S, Kanai M, Shinoda T, Morita H, Shimada S, Izawa KP: Relation between health utility score and physical activity in community-dwelling ambulatory patients with stroke: a preliminary cross-sectional study. Topics in Stroke Rehabilitaion 2018, in press.

スタッフ紹介​
患者様の希望に合った最適なリハビリテーションを提供します。

​山崎 允

【職種】 

 理学療法士 主任

 専門理学療法士(内部障害呼吸理学療法)

 

【所属学会等】

 日本理学療法士協会

​今村 まどか

【職種】 

 理学療法士 副主任​

 

【所属学会等】

 日本理学療法士協会

 

稲本 あさみ

【職種】 

 理学療法士 副主任

 認定理学療法士(脳卒中)

 

【所属学会等】

 日本理学療法士協会

梶本 一輝

【職種】 

 理学療法士 副主任​

 

【所属学会等】

 日本理学療法士協会

 

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