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​作業療法部門の特色

上肢機能障害に対するリハビリテーション

 脳卒中を発症した約85%以上の方が,上肢(手や腕)に運動感覚機能障害(動きの不自由さ)を患い,約55%から75%の方が,発症後3ヶ月から6ヶ月を超えても機能障害(後遺症)が残ると報告されています(※1).脳卒中に罹患した多くの方が,上肢に動きの不自由さが残ると言われている中,当院では脳卒中後の上肢機能障害に対して,多くの臨床研究で成果が報告された(エビデンスに基づいた)リハビリテーションを提供しています.当院の方針としては,上肢機能障害に対して最大限の回復を導き,患者さまが不自由になられた手を生活の中で使用できる喜びを得ることができ,それによって患者さまの生活の質が改善することを目指しています.

 主に当院に入院されている患者様を対象にして,日常生活が自立しても,上肢機能障害に対する作業療法の希望があれば,入院の延長や,外来,訪問リハビリテーションで,患者様のご希望に合った方法で作業療法を継続することができます.

(※1)Lai SM, et al: Persisting consequences of stroke measured by the Stroke Impact Scale. Stroke 33(7): 1840-1844, 2002.

エビデンスに基づいた治療を組み合わせた複合的なリハビリテーション

 当院では,上肢機能障害に対して,一般的な作業療法(関節可動域練習,ストレッチ,筋力強化練習,日常生活動作練習など)に加えて,近年,成果が報告されてきた,エビデンスに基づいた治療も積極的に実施しています.エビデンスに基づいた治療というのは,多くの臨床研究で,従来の治療と比較して効果が検証され,リスクよりも利益が上回り,意味のある成果が 報告された治療です.米国では,American Heart Associationが発表している成人の脳卒中に対するリハビリテーションのガイドライン(※2)が,日本では,日本脳卒中学会が発表している脳卒中治療ガイドライン(※3)が,エビデンスに基づいた治療を報告しています.

 上肢機能障害に対して,エビデンスが確立されている治療として,課題指向型練習やConstraint-induced movement therapy(CI療法),電気刺激療法,装具療法,ロボット療法などが挙げられます.当院では,患者さまのニーズや状態に合わせて,それらを組み合わせた複合的な上肢機能練習を提供しています.

 当院は,脳卒中を発症してから1ヶ月を超えた回復期の患者さま(※4)や,6ヶ月を超えた慢性期の患者さま(※5)に対する複合的な上肢機能練習の成果を報告しています.

a:装具療法と電気刺激療法を併用して,課題指向型練習を実施している.

b, e, f:様々な電気刺激療法を使用している.

c, d:様々な装具療法を使用している.

(図は※4の論文から引用し,改編している.発行元から転載許可あり)

(※2)Winstein CJ, et al: Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery

A Guideline for Healthcare Professionals from the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke 47(6): e98-e169, 2016.

 

(※3)日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会:脳卒中治療ガイドライン2015.協和企画,東京,2015.

 

(※4)竹内健太,竹林崇,山本勝仁,原田朋美,笹沼里味,島田真一:中等度から重度上肢麻痺を呈した亜急性期脳卒中患者に対する複合的な上肢集中練習の試み 探索的・後方視的ケースシリーズ.作業療法ジャーナル50(10):1155-1162, 2016.

 

(※5)原田奈菜子,竹林崇,笹沼里味,高木真人,島田眞一:複合的訓練を実施し,麻痺手による食事動作を獲得した1症例.作業療法ジャーナル50(5):491-495, 2016.

​上肢集中練習

 CI療法は,上肢機能障害に対するリハビリテーションでエビデンスが確立された治療方法の1つです.当院では,CI療法のコンセプトを参考にした上肢集中練習を実施しています.

 当院で実施している上肢集中練習は,大きく3つの要素で構成されています.1つ目の要素は,課題指向型練習です.課題指向型練習は,シェーピング(shaping)とタスクプラクティス(task practice)の2つで構成されています.シェーピングは,行動心理学的な原則に従った手法であり,細かな難易度調整により動きが不自由になられた手や腕の機能を向上させる治療方法です.当院では,様々な物品(例:ブロックやお手玉,ビー玉,アクリルコーンなど)を使用しています.タスクプラクティスは活動レベルの運動遂行の向上や手続きの学習を目的とした介入方法です.活動レベルの具体的な例としては,鉛筆で字を書いたり,箸で食事をしたり,ゴルフをしたり,などです.

 2つ目の要素は,動きが不自由になられた手で練習する量を多くすることです.スポーツと同様に,上肢機能障害に対するリハビリテーションも練習する量を多くすることが重要です.

 3つ目の要素は,不自由になられた手を生活で使用するための行動学的戦略であるTransfer Packageです.行動学的戦略では,まず療法士と協業して生活の中で不自由になられた手の使用場面を選定し,手の使用に関して同意をいただきます.その際に,患者さまの手や腕の機能に合わせて,無理に力が入ったり,筋肉に疲労が出たりしないように,動作の難易度と実施する項目数を調整します.生活の中で手を使用することが難しかった場合は,それを妨げている要因を明らかにし,その要因を解決するための解決策を療法士と一緒に考えます.

 当院では,日本の医療現場の実情に合わせた上肢集中練習を実施しています.患者さまの状態に合わせて,療法士との1対1の練習以外にも様々な自主練習を組み合わせて,1日2時間から3時間,多い方で4時間から5時間の上肢集中練習を行っています.

脳卒中急性期からの上肢機能障害に対するリハビリテーション

 欧米のガイドラインでは,脳卒中を発症してから1ヶ月以内の患者さまに対しては,1日2時間までの上肢機能練習は,手や腕の機能の改善に対して成果があることを示しています.当院でも,脳卒中を発症して1ヶ月以内の患者さまに対しては,状態に合わせて1日2時間までに抑えた上肢機能練習を実施しています.当院は,脳卒中を発症して14日以内の患者さまに対する,1日2時間の上肢集中練習の成果を報告しています(※6).

(※6)山本勝仁,竹林 崇,竹内健太,島田真一:脳卒中後急性期上肢麻痺に対する2時間のmodified CI療法の試み.OTジャーナル51(6): 528-532, 2017.

脳卒中慢性期での上肢機能障害に対するリハビリテーション

 当院では,作業療法の外来を実施しており,脳卒中を発症してから6ヶ月を超えた慢性期の患者さまに対しても,医療保険で,上肢機能障害に対するリハビリテーションを提供しています.

 主に対象となる方は,当院の急性期病棟や回復期病棟を退院した患者様です.

 重度の上肢機能障害を呈した慢性期の脳卒中患者さまに対して,他院でボツリヌス毒素製剤療法を実施され,当院の作業療法外来で,電気刺激療法と装具療法,上肢集中練習を併用した複合的な上肢機能練習を実施した結果,上肢機能が改善しました.当院は,その成果を報告しています(※7).

(※7)原田奈菜子,竹林 崇,笹沼里味,高木真人,島田真一:複合的訓練を実施し,麻痺手による食事動作を獲得した1症例.OTジャーナル50(5): 491-495, 2016.

上肢機能障害に対する家族参加型のリハビリテーション

 当院では,上肢機能障害に対するリハビリテーションに家族さまにも積極的に参加していただき,療法士的な立場を担っていただいています.患者さまがリハビリテーションで成し遂げたい目標を家族さまとも共有し,一緒になってリハビリテーションに取り組んでいただいています.CI療法の構成要素の1つであるTransfer Packageの中に,「介助者との契約」という要素があります.介助者との契約とは,①治療プログラムに対する介助者の理解力を向上させること,② 介助者の適切でかつ安全な介助方法を指導すること,を目的に介助者と療法士が公式に関わることです.

 介助者の関わり方としては,介助者が患者さまのコーチとなっていただき,自主練習の実施状況や生活での不自由になられた手の使用状況を担当療法士に伝えて,共有させていただいています.その他にも,練習課題を準備したり,関節を動かす練習や筋力強化練習の際に,介助者が手や腕の足りない力を手助けしたりしていただいています.

当院では,上肢機能障害に対する家族参加型のリハビリテーションでいくつかの成果を挙げ,報告させていただいています(※8,9).

(※8)原田朋美,竹林 崇,竹内健太,島田真一:家族参加型の上肢集中練習により希望であった麻痺手での作業を達成できた一症例.作業療法36(4): 437-443, 2017.

 

(※9)山本勝仁,竹林 崇,島田真一:脳卒中亜急性期での家族仲介型CI療法によりADL・上肢機能に改善を認めた1例.OTジャーナル51(7): 615-619, 2017.

電気刺激療法

 電気刺激療法は,上肢機能障害に対するリハビリテーションとして効果があると推奨されています(※10,11).当院では,様々な目的に合わせて電気刺激療法を併用しています.

  • 弱った筋に対する筋力強化目的

  • 過剰に働いている筋の緊張を緩和する目的

  • 課題を遂行する前に筋の状態を良好にする目的

  • 課題の練習の効果を高める目的

  • 肩の亜脱臼を改善し,練習中に肩の痛みを引き起こさない目的と,腕の動きのパフォーマンスを向上させる目的

などです.

a:肩の亜脱臼を改善する目的で,棘上筋と三角筋後部線維に電気刺激療法(イトーESPURGE®︎,伊藤超短波社,東京,日本)を実施している

b:指を開いたり,手関節を安定化させたりする総指伸筋の筋力を強化する目的で,電気刺激療法(イトーESPURGE®︎,伊藤超短波社,東京,日本)を実施している

c:課題の練習の効果を上げる目的で,総指伸筋に電気刺激療法(IVES®︎,オージー技研社,岡山,日本)を実施している

d:腕を前方に上げるための筋力を強化する目的で,三角筋と上腕三等筋に電気刺激療法(DRIVE®︎,デンケン,大分,日本)を実施している

e:手の筋力を強化する目的で,電気刺激療法(手指装着型電極FEE®︎,オージー技研社,岡山,日本)を実施している

(※10)Francisco G, et al: Electromyogram-triggered neuromuscular stimulation for improving the arm function of acute stroke survivors: a randomized pilot study. Arch Phys Med Rehabil 79(5): 570-575, 1998.

 

(※11)Chae J, et al: Neuromuscular stimulation for upper extremity motor and functional recovery in acute hemiplegia. Stroke 29(5): 975-979, 1998.

ロボット療法

 ロボット療法は,上肢機能障害に対するリハビリテーションとして効果があると推奨されています.当院は,ReoGo®️-Jという上肢機能練習用のロボットを有しています.

 ReoGo®️-Jは,帝人ファーマ株式会社(東京,日本)によって製造されたロボットで,Takahashiらの臨床研究(※12)よって,回復期脳卒中患者に対して効果が示された機器です.このロボットは,対象者の随意的な動きに応じて,電動モーターによる適切な介助を行い,正確な反復到達運動を目的に製作されています.19種類の運動課題が豊富に用意されており,さらに課題の中でも様々な設定が可能であり,対象者の問題点に合わせて課題を提供できます.

ReoGo®️-J(帝人ファーマ社,東京,日本)

(※12)Takahashi K, et al: Efficacy of upper extremity robotic therapy subacute poststroke hemiplegia: An exploratory randomized trial. Stroke 47(5): 1385-1388, 2016.

装具療法

 当院では,主に,重度の動きの不自由さを患った手で,課題指向型練習を実施するために装具療法を併用しています.重度の動きの不自由さを患った手では,往々にして,物品を掴むことが難しくなります.そこで,様々な装具を使用し,手首や指を,物品を掴みやすい状態にします.それによって,課題指向型練習が可能となり,患者さま自身の力を使って能動的な動作を反復することができ,良好な回復を導きます.

高次脳機能障害に対するリハビリテーション

 「高次脳機能障害」は用途によっていくつかの定義がありますが,学術用語としての「高次脳機能障害」は,「脳損傷に起因する認知障害全般を指し,この中にはいわゆる巣症状としての失語・失行・失認のほか記憶障害,注意障害,遂行機能障害,社会的行動障害などが含まれる」と定義されています.「など」の中には上記に挙げられていない様々な症状が含まれていますが,特筆すべき症状として,半側無視が挙げられ,脳卒中の急性期では高頻度に認められ,ADLの様々な場面で障害をきたします.

 高次脳機能障害は,脳卒中や脳外傷,脳炎,腫瘍,変性疾患など様々な原因によって起こり得ます.損傷された脳の場所や大きさ,受傷や発症からの経過によって,出現する高次脳機能障害や重症度が異なります.

 作業療法士は,MRIやCTなどの検査による脳画像や,患者さんやその家族からの聴取,行動観察,神経心理学的検査から高次脳機能を評価します.特に,生活場面での行動観察は重要であり,対象者が生活の中で真に困っている障害を明らかにすることができます.

 高次脳機能障害に対しては,発症や受傷からの期間や改善の程度,目標によって大きく分けて3つの訓練があります.1つ目は,医学的リハビリテーションプログラムで,個々の高次脳機能障害の対処を目指します.2つ目は,生活訓練プログラムであり,高次脳機能障害そのものを改善することではなく,残存している機能を活かした代償手段の獲得や,生活の環境を調整すること,技能を獲得することに主眼を置くことで,問題となっているADL,IADL,仕事や趣味などの作業の改善を目指します.3つ目は,職能訓練プログラムであり,職業で必要と考えられる技能を獲得することを目指します.長期的な職能訓練が必要な患者さまに対しては,自立生活訓練センターや市町村の就労支援事業への移行を検討します.

図は,国立障害者リハビリテーションセンター​,高次能機能障害情報・支援センター,高次脳機能障害者支援の手引き(改訂第2版から引用)

 当院では,医師や看護師,社会福祉士,理学療法士,言語聴覚療法士,作業療法士がチームとなって連携し,患者さまに対する高次脳機能障害の支援を行っています.さらに,家族さまにも患者さまのリハビリテーションに参加していただくように努めています.その際には,家族さまとリハビリテーションの目標を共有し,高次脳機能障害の現状を理解していただき,支援をいただきます.

日常生活動作(Activity of Daily Living; ADL)障害に対するリハビリテーション

 日常生活動作とは,日常生活を営むために最低限必要な日常的な動作であり,以下の動作を示しています.

 

食事:食事の準備,食べ物を口に運ぶところから飲み込むまでの動作

整容:口腔ケア,整髪,手洗い,洗顔,そして髭剃りまたは化粧を含む

排泄:排尿・排便の管理,トイレ動作(服を下げる,拭く,服を上げる)

更衣:上衣・下衣の更衣,義肢または装具の着脱

移乗:ベッド,椅子,車椅子の間での乗り移り,トイレの乗り移り,浴槽・シャワー室の出入り

移動:車椅子または歩行での移動,階段の昇段

入浴:身体の清拭

 

 急性期での作業療法では,ADLが安全に営めること,早期からADLの能力を高めることを目標に練習や環境調整を行います.脳卒中を発症してから間もない時期は,意識障害が出現し,さらに手脚の動きに不自由さを患っていると,病前とは異なる身体となり,混乱を生じます.さらに,入院という不慣れな環境になるため,生活リズムが崩れてしまい,混乱を一層高めます.それらによって,身の回りの動作が難しくなり,さらに転倒やベッドからの転落などの危険性が高まります.そのため,急性期では,患者さまの意識状態や精神・心理状態,手脚の運動感覚機能,起き上がりや座位などの基本動作,ADL能力,言語機能や注意機能などの高次脳機能などを幅広く評価し,看護師と相談してベッド周囲の環境や院内での生活リズムを調整します.また,脳卒中による合併症を起こさないように患者様の循環動態や呼吸状態を評価しリスク管理を行いながら,ADLの能力を高めるための積極的な練習を行っています.

 次に,急性期から自宅に退院される方に対しては,地域での生活や家事,復職に向けて支援を行っています.特に,高次脳機能障害を見落とさないように,脳画像や観察,検査を用いて評価を行っています.手脚の動きに不自由さがない場合,一見すると地域生活が営めると判断してしまいますが,高次脳機能障害がある場合は少なからず地域生活に支障をきたします.そのため,高次脳機能障害を見過ごさないように評価を行っています.

 

 回復期の作業療法では退院後の生活に焦点を当てた支援を行います.患者様の生活様式に合わせた目標を一緒に考え最適な練習プログラムを提供します.ADL(日常生活活動,身辺活動)の自立度向上は勿論の事,患者様自身が心身ともに主体的に生活できる事を目指します.希望される生活行為を基に心身機能を評価し,活動・参加に繋げられるように進めます.活動とはADLや家事動作,仕事等,社会的な行為全般を示します.参加とは活動に伴う役割を示します.

 院内生活では多職種と連携し患者様に応じた一日の予定調整,ベッド周囲の環境,福祉用具・機器の提供等環境整備を行います.生活の多様性を広げ活動量が増加できるように「質」と「量」の視点からも支援を行います.

 機能練習と併せて院内,自宅でのADLや家事動作練習の実施,公共交通機関を利用した外出練習,復職に向けて職場への情報提供なども行っています.機能改善が生活行為にどのように転移させられるかを主点としています.

 年間を通して創作活動等のレクリェーション活動も行っています.集団活動の中で交流とコミュニティーの形成や楽しみ,達成感等,入院生活の活性を目的としています

手段的日常生活動作(Instrumental Activity of Daily Living; IADL)障害に対するリハビリテーション

 IADLとは,日常生活上の複雑な活動であり,以下の活動を示しています.

 

  • 電話を使用する能力

  • 買い物

  • 食事の準備

  • 家事

  • 洗濯

  • 電車やバスなどの公共交通機関の利用

  • 自分の服薬管理

  • 財産を管理する

 

 当院の近くには,イオンモール伊丹昆陽店があり,そこで買い物の練習を行なっています.また,当院の周辺には市バスが運行しており,バスを利用する練習も行なっています.

作業療法では,患者様の退院後の生活やニーズ(目的)に合わせて,他職種と協業して,買い物や公共交通機関の利用練習以外にも前述したIADLの練習を行なっています.

スタッフ紹介​
患者様の希望に合った最適なリハビリテーションを提供します。

​平田 篤志

【職種】 

 作業療法士 副主任

​山口 理恵

【職種】 

 作業療法士 副主任

瀧野 貴裕

【職種】 

 作業療法士 副主任

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